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【第2部】 第19話 気まずい関係②

last update 最終更新日: 2025-09-22 18:00:35

「っおじいちゃん!!」

 私の怒鳴り声が廊下に響き渡り、祖父の肩がびくっと跳ねた。

 けれど、その顔は――まさかの、満面の笑み。

 ……いや、普通そこは謝罪の表情でしょ!?

 なんで嬉しそうに笑ってるの!?

 私の怒りはMAXだ。

「ま、まあええじゃないか。

 流華はモテモテじゃのう。龍がいて、ヘンリーや透真くんもおる、さらに真司くんまで。

 わしの孫はモテるなあ! 鼻が高いぞ、ほっほっほ!」

 あくまでご機嫌な祖父を前に、私は大きなため息をつく。

 やっぱり、期待した私が馬鹿だった。

 恋する乙女の胸の痛みなんて、この人にわかるわけがない。

 そもそもおじいちゃんに、わかってもらおうっていうのが間違いだったのだ。

「もう……いい。私が何とかする」

 これ以上祖父に言っても無駄だと悟り、くるりと背を向ける。

「人生、何事も楽しむのが一番じゃぞー!」

 背中越しに聞こえてくるその声を無視する。

 そんな余裕、ない。

 今はただ、龍のあの表情が頭から離れなくて――

 私は、必死で気持ちを切り替えようとした。

 憤慨したまま、鼻息荒く廊下を歩いていく。

 頭の中は、ぐちゃぐちゃだ。

 相川さんのことも、龍のことも……どうしたらいいのか、全然わからない。

 そのときだった。

 突然、目の前にスッと現れた人影。

 台所から出てきた龍と、バッタリ、鉢合わせてしまった。

「あ……」

 足が止まった。

 龍と目が合い、じっと見つめられる。

 けれど、その目はどこか曇っていて。

 いつもの穏やかさや優しさは薄れ、代わりに悲しげな色が浮かんでいた。

「……お嬢」

 切なげな声。

 まるで懇願するみたいに。

 心臓がギュッと締め付けられる。

 顔を見ていられなくて、すぐに視線をそらした。

 しばらく、お互いに黙ったまま。

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